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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)120号 判決

東京都台東区東上野3丁目12番9号

原告

株式会社エース電研

同代表者代表取締役

武本孝俊

同訴訟代理人弁理士

柏原健次

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

同指定代理人

高橋邦彦

浜勇

中村友之

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和61年審判第16650号事件について平成4年5月7日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和57年12月28日、発明の名称を「パチンコ球清浄材」(後に「6-ナイロンを主成分とする清浄材による遊技媒体の清浄方法」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和57年特許願第227298号)をし、昭和61年7月22日、拒絶査定を受けたので、審判の請求をしたところ、平成2年10月12日、出願公告決定がされ、平成3年2月13日、同年特許出願公告第10470号公報をもって出願公告がされたが、特許異議の申立てがあり、平成4年5月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年6月10日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

攪拌用筒と篩別装置によりなる遊技媒体の清浄装置において、該清浄装置内に6-ナイロンを主成分とする顆粒状清浄材と、汚れた遊技媒体を投入し、この顆粒状清浄材と汚れた遊技媒体を前記攪拌用筒内にて攪拌し、この攪拌中に該遊技媒体の汚れを顆粒状清浄材に付着して清浄化し、次いで前記篩別装置にて汚れの付着した清浄材と清浄された遊技媒体を篩別し、汚れの付着した清浄材は繰返し汚れた遊技媒体の清浄材として使用することを特徴とする6-ナイロンを主成分とする清浄材による遊技媒体の清浄方法(別紙図面参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  昭和50年特許出願公開第132592号公報(以下「引用例1」という。)には、研磨筒と篩別装置によりなるパチンコ球の研磨装置において、該研磨装置内に軟質の合成樹脂を主成分とする顆粒状清浄材と、汚れた球を投入し、この顆粒状清浄材と汚れた球を前記研磨筒内にて攪拌し、この攪拌中に該球の汚れを顆粒状清浄材に付着して清浄化し、次いで前記篩別装置にて汚れの付着した清浄材と清浄された球を篩別し、汚れの付着した清浄材は繰返し汚れた球の清浄材として使用することを特徴とする軟質の合成樹脂を主成分とする清浄材によるパチンコ球の清浄方法、が記載されている。

また、昭和54年特許出願公告第34198号公報(以下「引用例2」という。)には、ナイロン等の吸水性を有する合成樹脂粒と、ポリプロピレン等の吸油性を有する合成樹脂粒と、ガラス繊維又は石綿等の研硬材を適度に含有する合成樹脂粒とを混合したパチンコ球磨材、該パチンコ球磨材にはナイロン粒が40%あり、そして、ナイロンは水を吸着する性質があるため水溶性の汚れを除去すると共に静電気の発生を防止する効果があることが記載されている。

更に、「プラスチック材料講座ポリアミド樹脂」(日刊工業新聞社昭和50年10月10日2版発行)の1頁(「7頁」とあるのは誤記と認める。)ないし10頁(以下「引用例3」という。)には、市販のナイロン樹脂の種類は、ナイロン6及び66がその主流を占めていること、多くの成形加工法に対してはナイロン6の方が適しており、パイプ、チューブ、びん、フィルム、大型の成形品などにはナイロン6の方が多く使われていること、我が国ではナイロン6が第1の地位を占めていること、我が国の各メーカーでは成形用ナイロンについては当初よりナイロン6を主体にスタートしていることが記載されている。

(3)  本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、本願発明の攪拌用筒及び遊技媒体の清浄装置は、それぞれ、引用例1記載の発明の研磨筒及びパチンコ球の研磨装置に相当するので、清浄材の材質を、引用例1記載の発明が軟質の合成樹脂を主成分とする顆粒状清浄材としたのに対し、本願発明が6-ナイロンを主成分とする顆粒状清浄材として材質を下位概念にした点で両者は相違するのみで、その余の点では一致する。

そこで、前記相違点について検討すると、ナイロンは水を吸着する性質があるために水溶性の汚れを除去すると共に静電気の発生を防止すること、及び前記ナイロンの性質を利用し、パチンコ球磨材として、ナイロン等の吸水性を有する合成樹脂粒を使用することは引用例2に記載されている。前記ナイロンが6-ナイロンであるか否かは明示していないが、ナイロンの種類のうち、我が国では6-ナイロンが第1の地位を占めており、主であることが引用例3に記載されているように周知であり、更に、吸水率が高く、したがって、静電気の発生を防止するのは6-ナイロンであることは、例示するまでもなく周知であるので、引用例2に記載されたナイロンは6-ナイロンであると解するのが妥当である。そして、引用例1記載の発明における軟質の合成樹脂を主成分とする顆粒状清浄材を6-ナイロンを主成分とする清浄材に代えて本願発明の構成を得ることは、引用例1及び引用例2記載の発明が共に遊技媒体の清浄方法である点で同じ技術分野であるので、別段、困難性はない。

(4)  以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1、引用例2及び引用例3に開示された技術内容に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

(1)  審決の本願発明の要旨、引用例1ないし引用例3の記載事項、本願発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点の認定は認めるが、引用例2記載の発明の技術内容の認定及び相違点に対する判断は争う。

(2)で主張するとおり、生産量が多く、吸水率の高いナイロンとしては6-ナイロンの他66-ナイロンがあるにもかかわらず、審決は、引用例2記載のナイロンは6-ナイロンであると直ちに認定し、もって、本願発明が顆粒状清浄材につき6-ナイロンを主成分とするものを採用したことに別段の困難性がないと誤って判断したもので、違法であるから、取り消されるべきである。

(2)  審決は、引用例3の記載から、我が国においては6-ナイロンが第1の地位を占めていて主なものであり、また、吸水率が高く、したがって静電気の発生を防止するものが6-ナイロンであることは周知であるとして、引用例2記載のナイロンは6-ナイロンであると解するのが妥当であると判断している。

しかし、甲第14号証(篠原康夫編著「プラスチック技術全書9ポリアミド樹脂」株式会社工業調査会1979年3月25日発行)、甲第15号証(福本修編「プラスチック材料講座16ポリアミド樹脂」日刊工業新聞社昭和45年7月25日発行)及び甲第16号証(宮坂啓象外編「プラスチック事典」(株式会社朝倉書店1992年3月1日発行)には、ナイロンは66-ナイロンと6-ナイロンの双方が主である旨記載されている。

そして、甲第17号証(福本修編「ポリアミド樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社昭和63年1月30日発行)には、66-ナイロンと6-ナイロンの双方が、他のナイロンと比較して、極めて高い吸水率を有する旨記載されている。

したがって、引用例2記載のナイロンは66-ナイロンでもよいものであって、これを当然に6-ナイロンであるということはできないものである。

被告は、6-ナイロンが主であることの理由として、引用例3の記載の他、甲第14号証に「成形用ナイロンのうち、ナイロン6が70~80%を占め、残りはナイロン66、610、共重合、12などである」(13頁下から4行、3行)と記載されていることを挙げる。

しかし、同号証には、前記記載に続いて、「ナイロン66の伸びが大きい。」(13頁下から3行)と記載されている。

そして、同号証の初版の発行日は1979年3月25日であるが、本願発明の出願日は昭和57年(1982年)12月28日である。甲第17号証の16頁の表1.5(日本のナイロン樹脂別生産推移)の1980年及び1984年の数値から推して、前記1979年3月から1982年12月の3年9ケ月余の間において、66-ナイロンの生産高は略70%も上昇している。

このように66-ナイロンの生産量が急伸しているときにおいては、単にナイロンという場合は特段の事情のない限り6-ナイロンを指していると解することは極めて不自然である。

したがって、審決が引用例2記載のナイロンとして6-ナイロンしか認定しなかったことは誤りである。

ナイロンの主なものとしては6-ナイロンの他66-ナイロンがあるのであり、例え、6-ナイロンの方が生産量が多いとしても、当業者はパチンコ球の清浄材として直ちに6-ナイロンの採用を想到し得るものではなく、そのためには、その双方についてどちらがパチンコ球の清浄材として優れているかテストする必要があり、本願発明もこのようなテストのもとに完成されたものである。

しかるに、審決は、引用例2記載のナイロンは6-ナイロンであると認定して、そのナイロンには66-ナイロンも含まれることを看過し、もって、このような引用例2記載の発明の技術内容についての誤った認定に基づき、本願発明において相違点に係る構成を採用することが容易であると誤って判断したものである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める。

2  同4は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

審決が引用例2記載のナイロンは6-ナイロンであると認定したことに誤りはない。

引用例3には、「市販のナイロン樹脂の種類は、現在ではナイロン6、66、610、11、12あるいは、それらの共重合などと非常に多岐にわたっているが、もともと繊維から出発しただけに、繊維の生産事情を反映してナイロン6およびナイロン66がその主流を占めている。ナイロン6は66に比べて融点が45℃低く、いくぶんやわらかいので、歯車やブッシュなどの機械部品にはナイロン66のほうが適している場合も多いが、多くの成形加工法に対してはナイロン6のほうが適しており、パイプ、チューブ、びん、フィルム、大型の成形品などにはナイロン6のほうが多く使われている。価格の面からもナイロン6のほうがいくぶん有利であり、アメリカを除いてヨーロッパ諸国やわが国ではナイロン6が第一の地位を占めている。」(1頁13行ないし22行)と記載されており、6-ナイロンが第1の地位にあることが認められる。

また、このことは、甲第14号証に「成形用ナイロンのうち、ナイロン6が70~80%を占め、残りはナイロン66、610、共重合、12などである」(13頁下から4行、3行)と記載されていることからも裏付けられる。

したがって、我が国において、単にナイロンという場合には、特段の事情のない限り、先ず、ナイロン6を指していると解するのが自然である。

また、原告は、66-ナイロンも吸水率が高いことが甲第17号証に示されていることを挙げるが、同号証の11頁表1・2「代表的なナイロン樹脂の特性」には、吸水率の数値が、ナイロン6が1.8 ナイロン66が1.3 ナイロン11が0.23 ナイロン12が0.21 ナイロン610が0.30と記載されている。

前記吸水率の数値によれば、ナイロン6の吸水率は1.8で最も高く、次いで高いのがナイロン66の1.3である。

引用例2記載のナイロンは吸水する性質があるため水溶性の汚れを除去すると共に静電気の発生を防止するものとされているから、当業者は、単にナイロンいう場合は6-ナイロンを想起するものである。

以上のことから、引用例2記載のナイロンは6-ナイロンであると認定したことに誤りはなく、したがって、また、審決が66-ナイロンについて何ら言及することなく、本願発明が顆粒状清浄材つき6-ナイロンを主成分とするものを採用したことに別段の困難性はないと判断したことに誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

また、審決の引用例1ないし引用例3の記載事項並びに本願発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点の認定は当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。

1  成立に争いのない甲第4号証によれば、平成3年特許出願公告第10470号公報には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について次のように記載されていることを認めることができる。

(1)  本願発明は、パチンコ球及びスロットマシンのメダル等(以下「遊技媒体」という。)の清浄方法に関する。

遊技媒体は、使用しているうちに手垢やタバコの灰や塵埃等の汚れが付着するので、これを清浄化する必要かある。

従来はそのために汚れた遊技媒体を特殊の浄化液に浸漬したり、皮片や布片等と混合攪拌していた。しかし、浄化液は相当高価で後に乾燥処理を必要とする等その取扱いはやっかいであり、また、皮片等を使用する場合には再使用が不可能で使用後廃棄する他なかったり、皮から出る油が遊技媒体についてベトベトさせたり、皮等が分解されて微粒(粉クズ)を生じ、これが遊技媒体に付着したり、遊技媒体を配給する桶やゲージ等を汚したりする等の欠点があった。

また、その他の技術として、昭和55年特許出願公開第157469号公報には、6-ナイロン等合成樹脂にガラス繊維等を混合した研磨材よりなる成形品研磨用チップに関する技術が開示されている。しかし、この発明に開示された研磨用チップを研磨清浄方法に用いると、該研磨用チップが粉末になり、清浄材として役立たず(反対に粉末が遊技媒体に付着して汚してしまう結果となる。)、また、再使用及び再々使用等継続して使用することができないという欠点を有していた。

本願発明は、このような従来の問題点に着目し、清浄材により遊技媒体の汚れを完全に拭い取るとともに該清浄材を再使用、再々使用等継続して使用できるようにした遊技媒体の清浄方法を提供することを技術的課題(目的)とする(1欄16行ないし2欄24行)。

(2)  本願発明は、前項の技術的課題(目的)を解決するために、その要旨とする構成(特許請求の範囲記載)を採用した(1欄2行ないし13行)。

(3)  本願発明の構成によれば、遊技媒体に付着した手垢、煙草の灰等の汚れの除去に極めて優れた効果を有する6-ナイロンを清浄材の主成分として使用したことにより、遊技媒体を完全に清浄化できる上に、継続して使用できるという作用効果を奏する(6欄22行ないし28行)。

2  成立に争いのない甲第12号証によれば、引用例2記載の発明は、出願日を昭和50年6月12日(1欄3行)、その名称を「パチンコ球磨材」(1欄1行)とし、特許請求の範囲を「吸水性合成樹脂粒と吸油性合成樹脂粒と研硬材を含有する合成樹脂粒とを混合したパチンコ球磨材。」(1欄16行ないし18行)とする発明であるが、発明の詳細の説明には、

「本発明はこれら従来のものの欠点を完全に解消するために発明されたものであって、ナイロン等の吸水性を有する合成樹脂粒と、ポリプロピレン等の吸油性を有する合成樹脂粒と、ガラス繊維又は石綿等の研硬材を適度に含有する合成樹脂粒とを混合したことを特徴とするものである。(略)

次にこのようなパチンコ球磨材を得るための諸元の一例を示す。

(1)ガラス繊維30%混入のナイロン 10%

(2)ナイロン粒 40%

(3)ポリプロピレン粒 50%

このような成分のうち、ナイロンは水を吸着する性質があるため水溶性の汚れを除去すると共に静電気の発生を防止し、」(2欄5行ないし21行)と記載されていることが認められ、また、(2)のナイロン粒のナイロンにつきその種類を限定する記載はないことを認めることができる。

これによれば、引用例2記載の発明に用いられるナイロンは、その吸水率が高いものが好ましいことは窺われるものの、それ以上、性質の限定はない。したがって、これにどのような種類のナイロンが含まれるかは、引用例2記載の発明の出願当時の技術水準に基づいて判断する必要がある。

引用例3は引用例2記載の発明の出願日である昭和50年6月12日以後の日である昭和50年10月10日に発行されたものであるが、成立に争いのない甲第15号証によれば、引用例3の文献の初版(昭和45年7月25日発行)にも審決が認定した記載と同一の記載(1頁ないし10頁)があることが認められ、審決認定の引用例3の記載事項は、引用例2記載の発明の出願当時の技術水準及びナイロンの生産状況を表しているものと認めることができる

これによれば、引用例2記載の発明の出願当時、我が国においては、ナイロンとして6-ナイロン及び66-ナイロンが主流であるが、6-ナイロンの方が第1の地位を占めていることを認めることができる。

また、成立に争いのない甲第17号証によれば、福本修編「ポリアミド樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社昭和63年1月30日発行)の11頁の表1.2「代表的なナイロン樹脂の特性」には各種ナイロンの吸水率(24hr、%)が示されているが、これによれば、ナイロン6が1.8、ナイロン66が1.3、ナイロン11が0.23、ナイロン12が0.21、ナイロン610が0.30となっており、ナイロン6(6-ナイロン)の吸水率はナイロン66(66-ナイロン)の吸水率より約50%高く、またこの二つのナイロンの吸水率は他のナイロンに比較して際立って高いことが認められる。

なお、同文献は、引用例2記載の発明の出願の日以後の日の発行に係るものであるが、前認定のとおり、引用例2には「ナイロンは水を吸着する性質があるため水溶性の汚れを除去すると共に静電気の発生を防止する効果があること」が記載されていることからして、各種のナイロンの吸水性については、引用例2記載の発明の出願当時、当業者にとって、周知のことであったと認められる。

以上のことからすると、引用例2記載のナイロンは、引用例2記載の発明の出願当時最も多く用いられ、吸水率も高い6-ナイロンがこれに含まれることは勿論であるが、他に、これに次いで多く用いられ、また、吸水率もこれに次いで高い66-ナイロンであっても差し支えないものと認められる。

したがって、審決が、「引用例2に記載されたナイロンは6-ナイロンであると解するのが妥当である。」と判断したのが、引用例2記載のナイロンが6-ナイロンに限定されるという趣旨であればそれは正当ではない(もっとも、それが審決の結論に影響に及ぼすか否かは別問題である。)。

しかし、審決の趣旨はそこにあるのではなく、これは、引用例2記載のナイロンとして、生産量が最も多く、吸水率が高い6-ナイロンが先ず挙げられるという趣旨であると認められのであり、この判断に誤りのないことは明らかである。

そして、引用例2記載のナイロンが6-ナイロンのみであるとするにせよ(それが正しくないことは前述のとおりであるが)、6-ナイロンの他66-ナイロンが含まれるとするにせよ、当業者は、引用例2から6-ナイロンをもってパチンコ球の磨材とすることの教示を得るのであるから、当業者が、引用例1記載の発明における軟質の合成樹脂を主成分とする顆粒状清浄材に代えて、6-ナイロンを主成分とする顆粒状清浄材を用いることとし、もって本願発明の構成を得ることを想到することが容易であったことは明らかである。

よって、審決が相違点に対して示した判断に何ら誤りはない。

これに対し、原告は、引用例2記載のナイロンには6-ナイロンの他66-ナイロンも含まれるため、そのいずれが本願発明の顆粒状清浄材として適しているかテストをする必要があるので、本願発明がそのうち6-ナイロンを選択したことには発明力があり、これは当業者にとって容易に想到することができたものではないという趣旨の主張をしているが、引用例2記載のナイロンとして6-ナイロンと66-ナイロンがあることが当業者にとって明らかであれば、その二つの清浄力を試験して、その優れた方を清浄材として採用することは何らの困難性なくできることであり、原告のこの主張はおよそ理由がない。

3  以上のとおり、原告の審決の取消事由の主張は理由がない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙図面

〈省略〉

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